馬に逆ニーブラされた思い出


「善戦マン」の代名詞、ナイスネイチャ
よく聞く話だと、とにかく不器用で手前を変えるのが上手でなかったらしい。
ゴール前で伸び切れず3着が多かったのはそのためか。
あれだけ切れ味ある末脚を使えるのだから、器用だったならG1も夢ではなかったと思うが。





同じくシャコーグレイド
ナイスネイチャとは違いモッサリしたジリ脚タイプ。
晩年はブリンカーを着用していたように、反応も鈍いノンビリ屋さんという印象。
某血統評論家は「シャコーグレイドは世界に通用するステイヤー」とべた褒めした血統馬だったが、善戦マン止まり。





ロイスアンドロイス
おそらくは真面目に走らないタイプだったように思う。
騎手がゴーサインを出しても反応しなかったり、フッと気を抜く癖があったり。
実際はどうだったか知らないけど、度胸がありすぎて人間の手を焼かせるゴールドシップのような性格だったのではないかと。




1着の回数に比べて入着がやたら多い所謂「善戦マン」も、このように色々なタイプがいるようです。
競馬ゲームでは「底力がない」「勝負根性がない」の一言で片づけてしまうけど。





高知競馬での騎乗期間中、上で挙げた中でいえばロイスアンドロイスタイプの馬が転厩してきたんです。
人間のことを屁とも思わない、度胸のありすぎる馬。




オーナーがいらっしゃることだし馬名は伏せるが…、G としとくか。




Gの調教を任された森田は、最初は良かったものの次第に気の悪さを見せられはじめ、振り落とされたり蹴られそうになったりで毎日死ぬ思いをしていたため、先生がこりゃイカンということで金沢から来た名手・H騎手に一度任せてみることとなったのです。
で結果は、









イラストのとおりです。
H騎手を早々と振り落としたGは、その勢いで隣の馬に乗っていた森田を前脚で引きずり落としたんです。
こんなことが普通、あってたまるか。




「オレの馬が急にダンソンし始めたら、森田君がニーブラされた!!」




と興奮気味に話すH騎手。
そんなヤンチャな競走馬Gの通算成績は、39戦して3勝、3着は10回。
あぁ…やっぱり…。
典型的なロイスアンドロイスタイプだわ、こいつ。




しかしそんな善戦マンで勝ち切れないGも、高知に来てから金沢の名手・畑中騎手とコンビを組んだ途端、早くも2勝を挙げました。
調教はともかく、レースでは完璧に騎乗。
騎手には反抗する、ムチは嫌がる、先頭に立つと気を抜く、そんな馬をどうやって動かしてるのか。




畑中信司騎手、この人だけは別格。
高知へ来て以来、




「あぁ… あのお方が憧れの宮川実さん…。」 から始まり、そして


「うーんさすがに赤岡さんは凄い! 佐原さんも永森さんも、みんな上手いなァ…。」 ときて、そして最後に


「なんやこの人?! まるで馬の動きが違う…!!」 というトンデモないものを見せられた。




あのナムラダイキチがあれだけの成績を残せたのも、騎手の力が大きかったのではないかと疑ってしまう。
畑中さんを見て自分がいかに下手くそかを思い知った反面、不思議とヤル気や勇気もみなぎってきた。
オーストラリアの騎手生活では正直、




(所詮、ケイバは馬が全てだから騎手がいくら頑張ったところで大して変わらん。)
(喋りがダメで営業ヘタな自分はどうせ騎乗馬に恵まれず、成功はできない。)




…などと半ば諦めて腐ってた。
しかし「ウマは騎手でこんなにも変わるのか!」 という事実を目の前で見せられて衝撃を受けた。
それは例え人づきあいが苦手でも腕さえあれば一流になれるぞ、ということ。




森田が乗っていた馬が、畑中さんをはじめ高知のトップジョッキーが乗ると、もうスタートの一完歩めから違う。
馬乗りは奥深く、まだまだ研究し甲斐があるということも分かった。
こんなことはオーストラリアでは思ったことはなかった。
腐らずにやれるとこまで頑張ってみないと、研究して技術を磨いて磨いて上を目指さないと、という気になった。




「マキー、そんな馬でどうやって勝ったの?!」




とライバル騎手にビックリされるような騎乗がいつかできるようになりたい。
高知滞在中に、畑中騎手と騎乗期間が被ったのはほんとうにラッキーでした。
良い経験をさせて頂きました。




では畑中さん、YG君、M本さん、今日もGの調教おつかれさまでした。
殴られないように前脚には気をつけてください。




 
そういえば、高知での最後のレース騎乗馬はGだった。(返し馬で振り落とされた)