29歳、甘酸っぱい恋物語


あの子がオフで仕事休みの日は、なんだか寂しいと感じるようになったのはいつ頃からか....。






上手く乗れないと言うから、調教はつきっきりでいつも併せ馬。
仕事終わったあとも、木馬で特訓。
車を持ってないから、スーパーに買い物なども一緒。
二人でいる時間はたしかに多かった。






「あの二人はどうもアヤシイ」ではなく、
「あの二人って付き合ってるんでしょ?」などと周囲の噂は勝手にひとり歩き。











他人を通じて彼女の気持ちを聞かされたのは、12月に入ってすぐの頃。






自分がいくらボーっとした人間であっても、それくらいは感じ取ります。






でもちょっと、冷静になってみてみ。
こっちは今年で30になる冴えない東洋人やで?
そんなん一時的な気の迷いにすぎんやろ....。
歳も離れてるし、やはり同じジョッキーどうしというのも、前に進むのをためらってしまう理由。









なんの進展もないまま迎えたクリスマス、そして翌日の引越し。
別れの朝、旅立ちの朝。
パースから北へ500km、ジェラルトンへ出発。
新しい生活がはじまる。









...そして突然やって来た虚無感。






年齢差とか、ジョッキー同士とか、自分が見劣りするとか、そんなんどうでもええ。 自分は本心では一体、彼女をどう思ってるのか??




...それは日頃できるだけ考えないように封印してきたこと。




でももう気付いてたやろ? 彼女が仕事オフで調教に出てこない朝は、なんだか寂しいとか。 他の女の子にはぜったいに湧かないであろう、何か特別な気持ちを持ってるってのは。






いまさら、こんな遠くまで来てようやく....。






ものぐさな男が、その時たまらず手にしたのは携帯電話。









29歳の甘酸っぱい恋物語は、今ようやく始まった....。







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(この物語がフィクションか、あるいは実話であるかはご想像におまかせします。)